去年の6月に、イラク人ドクター2名が来日し、
札幌の病院で研修を行っています。
今回お二人が、能を見るために東京に来るとのことで、
私たちは講演会を企画しました
現在、イラクの状況を正確に伝えるメディアはなかなかありません。
一般のマスメディアにはフィルターがかかっているし、
「自爆テロによる死者○○名」というニュースばかり。
そんな中、彼女たちからイラクのありのままの情報を、
一人でも多くの日本人に伝えてもらいたいと、
講演会を企画し、当日はテレビ取材も入りました。
いくら東京でも人を集めるのが難しい今、
それでも120名の方たちが来てくださいました
イラクで今深刻な問題は、治安の悪化もさることながら、
インフラが整備されていないこと。
電気は、2時間来て4時間停電。
お二人は、新生児専門医でNICU(小児集中治療室)で働いているのですが、
こんなに停電が起こると、モニターや酸素をまともに使うことができません。
病院も各家庭も、自家発電を使用していますが、
自家発電には石油が必要です。
しかし、世界代第二位の産油国であるにも関わらず、
今、イラク人が石油を手に入れるのは困難な状況にあります。
なぜなら、価格が高騰しているからです。
おかしいと思いませんか?
そして水。
今のイラクでは下水処理が不十分で、
清潔な水を手に入れることが困難です。
汚染された水さえ手に入れるのが困難なのです。
汚染された水により、5歳以下の子どもたちが下痢で亡くなっています。
これは深刻な状況です
そして新生児専門医として問題にあげているのが、
夜間のお産の困難さについてです。
今のイラクでは、夜間に病院に来ることができません。
それは、治安上の問題からです。
しかし、赤ちゃんは待ってくれません。
幸運にも妊婦さんが病院にたどり着いたとしても、
ドクターや助産師が来ることができなければ、お産が進みません。
(もちろん、医療者がいなくても正常分娩であれば出産は可能です)
それが、問題のある分娩であれば、事態は尚更深刻です。
治安の悪化により、定期検診にも来ることができず、
異常分娩でも病院に来ることができなかったら・・・・
それで命を落とす、お母さんや赤ちゃんはどのくらいいるのでしょうか?
そしてアメリカが使用した劣化ウランのせいで、
先天性異常の子どもたちが増加していますが、
出産前にそのことが分かっても、イスラム教では中絶が禁止されています。
しかし、国内が混乱している今、
そんなお母さんと障害をもった赤ちゃんのフォローは万全ではありません。
そんな中で生きていかなければならないのです。
幸せなはずの出産が、幸せとは思えない・・・
しかし、この講演会の中でドクターは言っていました。
「お母さんになるのは素晴らしことです。女性にとってかけがえのない経験です。」と。
そう思いながら、お母さんや赤ちゃんと接しているドクターがいる限り、
イラクのお産の現場も、まだまだ持ちこたえられるんじゃないかな?と、
そう願わずにはいられません
そして・・・
今、テレビやニュースで取り立たされているのは、
シーア派とスンナ派の宗教対立の激化です
しかし、ドクターのお二人は言います。
「それは政治的な問題で、メディアが言っていること。
私たちは昔からずっと、宗派に関係なく普通に生活してきました。
お互い同じコーランを信仰しているし、宗教にたいした違いはありません。
イラクではキリスト教やその他の宗教が混在しており、
イスラム教徒がキリスト教の教会にいることは、珍しくないのです。」
そして彼女たちは何度も繰り返していました。
「イラクは、ひとつです」と。
2005年10月に国民投票が行われました。
それは、イラクを3つの地域に分けようとするもの。
シーア、スンナ、クルド人に分ければ、
治安が維持し管理しやすいということでしょう。
しかしもちろん、この案に反対するイラク人はいますし、
現にこのお二人も、「それは適切でない」と。
今のイラクに何よりも必要なのは、
アメリカの言いなりになる政権ではなく、
強いリーダーシップをもつ指導者です。
それしか、この混沌とした状況を打破する道はないのではないでしょうか。
それと・・・
アメリカが始めたこの戦争。
きっちりアメリカが、決着をつけなければならないと思います。
お二人は、「9.11」のことをこんな風に言っていました。
「あれは、アメリカが勝手に言ってることです。
あの首謀者20人の中に、イラク人は一人もいません。
大量破壊兵器もありませんでした。
イラクには関係のないことです。」と。
現在でもイラクでは自爆テロが続いています。
昨日の新聞にも、「バクダッドで死者150人」と載っていましたが、
イスラム教は自殺を禁じています。
そして宗派に関係なく幸せに暮らしていたイラク人にとって、
イラク人がイラク人を殺す、という今の状況は
不思議でならないそうです。
治安が維持できないイラクでは、国境がオープンになり、
いつでも誰でも、入国できる状態です。
アメリカには世界中に敵がいて、そのアメリカと戦いたいがために
イラクに入ってくる外国人組織も多数います。
そういう人たちが爆弾テロを起こすことも多々あります。
私がイラクに関わり始めて1年。
ヨルダンでイラク人から話を聞くこともあれば、
イラクに詳しい日本人から、イラクの現状を聞く機会もたくさんあります。
しかし、今回のお二人の話は、目からウロコでした
「うんうん、そうだよね~」と、改めて感じる部分も多かったです
多くの情報の中から、
何が真実か、何が正しいかを見極める目と耳をもち、
それを伝える行動が、必要なのだと思います。