医療支援の難しさを改めて考える~マルチシムー二教会クリニックでのIDPに対する医療支援

負傷兵のケース

「IDPの若い男性が医師を必要としている」とのことで、その男性が家族・親類と生活する家を訪問しました。イラク最大の部族の1つであるジャブーリー族(発音、合ってるかな??)の25歳男性、ラアドさん。

玄関を通って一室に通されると、そこはオトコの世界~~(@_@)グレー系や茶系の民族衣装を着た、身体の大きな男性たちが一室を囲むようにずらーっと座っており、女性がひとりもいない。。。

いや、男性の来客がある時に女性が奥に引っ込んでいるのは普通にあることだけど、ここまでオトコ臭(ホントに臭うわけではありません)がぷんぷんするのは久々です~Σ(゜д゜

私たちが部屋に通されると彼らはささっと立ち上がり場所を譲ってくださり、異教徒の女性が珍しいのかジロジロ(ニヤニヤ!?)物珍しそうに見られ・・・
部屋の奥に目をやると、若い男性がベッドに横たわっていました。

ラアドさんは故郷を護るため義勇軍に志願し、軍の登録をした帰り道にダーイシュ(IS)の狙撃兵に狙われて腹部に銃弾を受けました。その結果、現在S状結腸に人工肛門を造設しています。

その銃弾は左大腿骨を貫通し、骨折。神経も損傷しており左下肢の内側の筋肉に麻痺があり、思うようにリハビリが進まない様子。リハビリが進まないため膝関節の拘縮が進み、痛みのために更にリハビリができない状態にありました。

一緒に訪問した日本人医師たちは、「リハビリをしないと更に拘縮が進んでしまうから積極的にリハビリを行い、そうすればADLがあがる」こと。そして「人工肛門はなくすことができる」ことを伝えました。

ラアドさん本人とお父様、親戚の方々は「また元のように歩けるようになる」と思っていたようで、今までいろんな医師たちに意見を求めて来ました。残念ながら、受傷したのは今年の1月で、しかも銃弾による神経の損傷であるため、今から神経を繋いで機能を回復させるのは難しいようです。

リハビリと装具次第では歩くことも可能になるかもしれません。しかしそのような高性能の装具を手に入れることは、今のイラクでは困難でしょう。

言葉が詰まる思い

医療者としてこの土地に暮らし、彼らに寄り添うことができれば、万全の体制でリハビリをサポートすることができたかもしれません。しかし「通りすがり」の私たちには助言はできても、その言葉にどこまで魂が込められるのか・・・

もしかしたら彼らは今後も、痛みが伴うリハビリを継続することよりも、「絶対に元のように歩けるようになるよ」という医師の一言を求めて、さまよい続けるかもしれません。

現実を伝えながらも、未来への希望や可能性も伝えたい。その難しさを改めて実感したケースでした。
←ウチの現地駐在員が継続してフォローすることにはなっています。

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私たちが帰る時に、家の奥から出てきた子どもたち☆

プロジェクトの概要

プロジェクトの実施団体→日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)
活動地→イラク共和国アルビル県アルビル市アインカワ地区
実施期間→2015年2月~7月

背景

イラク国内では、去年の夏から激化したダーイシュ(IS)の迫害によって、ニナワ県モスル等からクルド自治区に約85万人の方々が逃れてきています。彼らは建設中の建物や空き家、学校、広場そして宗教施設等で生活をしています。その内、約5万人のクリスチャンは、クルド自治区のアインカワ地区(クリスチャンの地区)で暮らしています。

そんな中、同じ国内避難民でありクリスチャンの医師らが、マルチムーニ教会にクリニックを設け、診療活動を行っています。去年の7月から1日約500人近くを診察しているクリニックでは、9月から薬品購入の資金が足りず、医療設備も不十分なため、慢性疾患を抱える方々の継続した治療が困難な状況にあります。

JCFが2009年から行ってきたサポートしてきたイラクの小児科医であるリカァ・アルカザイル医師が、去年の7月にご家族とともに長野県松本市に避難してきました。リカァ医師の友人であり親戚でもある小児科医のナガム医師がマルチシムーニ協会のクリニックの立ち上げと継続した運営に関わっているため、今回JCFがクリニックのサポートを実施することになりました。

事業内容

1.初期診療における投薬指導
2.カルテ作成と管理スタッフの育成
3.医療チームの派遣による医療体制構築支援

IDPとは

国内避難民のこと。「難民」とは異なり、自分の国の中で避難している人々をさします。

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