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患者さんによるクリニックに対する評価は?
私たちは2015年2月から半年間のプロジェクトを、イラクのアルビル県アルビル市アインカワ地区でスタートしました。IS(イスラム国)によって迫害されたクリスチャンの医師たちが自主的にクリニックを立ち上げ、その運営サポートをしています。しかし私が気になったのは、運営側(医療従事者側)の視点で物事を見て、考えており、「じゃあ、実際に利用している患者さんはクリニックの運営にどのくらい満足しているの?」ということ。
クリニックはその地域の市民のものであり患者さんのものだと私は思います。なので、医療従事者ひとりよがりの運営であってはならない、と。そのためには実際に利用している患者さんにアンケートを取って評価することが必要だと思いました。
6月にマルチシムーニクリニックで、簡単なアンケート調査を実施しました。得られた結果の信頼性・客観性は、正直それほど高くないかもしれません。何故なら、アンケート調査を実施したのが、私やイラク人医師であり、つまり運営側の人間であると言うこと。このことはアンケート結果の公正さを欠くと思います。
また、「日本語→英語→アラビア語」の翻訳が適正かどうか吟味する時間がないまま実施したこと。そのため、微妙なニュアンスまで正確に伝えられたかどうかの評価が困難だと思います。
しかし今回のアンケート調査は看護研究ではなく、学術論文にするわけではありません。「より多くの患者さんの声を集める」という部分に比重を置くため、結果の正確さに関しては若干差し引くことにして実施しました。
アンケート結果
集計数52件
有効回答数50件
→途中でアンケートを拒否した患者が2名
平均年齢:41.92歳
性別:男性16人、女性34人(男性32%:女性68%)
宗教:クリスチャン47%、ムスリム47%、ヤジディ6%
具体的に見ていくと・・・
(はい2点、まあまあ1点、いいえ0点)
1.自宅からクリニックまでの歩いて来れるか 0.74points
→徒歩2-30分
2.自宅から毎回車で来れるか 1.21points
→車(タクシーもしくは自家用車)で5-30分
3.診察の待ち時間は適切か 1.72points
4.検査の待ち時間は適切か 1.83points
→歯科は待ち時間が長い。約1-2時間かかる。
→エコーの待ち時間が長い。
5.クリニックでの検査は充分足りているか 1.8points
→眼科、耳鼻科の検査ができると良い
→関節の検査ができると良い
→レントゲンやMRIがあると良い
6.処方の待ち時間は適切か 1.97points
7.薬の内容は充分か 1.76points
→もらえなかった薬
(喘息、小児用消炎鎮痛剤、点眼薬、ステロイド、ボルタレン、インシュリン)
8.クリニックのサービスに満足しているか 1.85points
→待ち時間が1-2時間のため、歯医者の数を増やして欲しい。
→エコーの台数を増やして欲しい。
→ガンの治療ができると良い。
→水飲み場が欲しい。
→トイレが欲しい。
→女性用診察室が暑い。
→埃がひどい。
→個人用の血圧計や血糖値測定器が買えると良い
結果を受けて改善すること
これらの結果は、クリニックを運営する医師たちと共有しました。
*エコーをもう1台導入する
*耳鼻科医と眼科医はいるので、検査できる機器を提供する
*レントゲンは放射線管理をどうするかが課題だが前向きに検討する
*女性診察室のエアコンの調整をする
*簡易トイレを複数設置する
*水飲み場を複数設置する
ということになりました。
あと半年間、プロジェクトを継続できることになりそうです。もし継続が決定したら、患者側の評価を引き続き実施していきたいと思っています。
プロジェクトの概要
プロジェクトの実施団体→日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)
活動地→イラク共和国アルビル県アルビル市アインカワ地区
実施期間→2015年2月~7月
背景
イラク国内では、去年の夏から激化したダーイシュ(IS)の迫害によって、ニナワ県モスル等からクルド自治区に約85万人の方々が逃れてきています。彼らは建設中の建物や空き家、学校、広場そして宗教施設等で生活をしています。その内、約5万人のクリスチャンは、クルド自治区のアインカワ地区(クリスチャンの地区)で暮らしています。
そんな中、同じ国内避難民でありクリスチャンの医師らが、マルチムーニ教会にクリニックを設け、診療活動を行っています。去年の7月から1日約500人近くを診察しているクリニックでは、9月から薬品購入の資金が足りず、医療設備も不十分なため、慢性疾患を抱える方々の継続した治療が困難な状況にあります。
JCFが2009年から行ってきたサポートしてきたイラクの小児科医であるリカァ・アルカザイル医師が、去年の7月にご家族とともに長野県松本市に避難してきました。リカァ医師の友人であり親戚でもある小児科医のナガム医師がマルチシムーニ協会のクリニックの立ち上げと継続した運営に関わっているため、今回JCFがクリニックのサポートを実施することになりました。
事業内容
1.初期診療における投薬指導
2.カルテ作成と管理スタッフの育成
3.医療チームの派遣による医療体制構築支援
IDPとは
国内避難民のこと。「難民」とは異なり、自分の国の中で避難している人々をさします。