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いかに薬を減らすか
日本チェルノブイリ連帯基金(以下、JCF)は、マルチシムー二教会クリニックに医療支援を行っています。その支援の1つが「病院運営の構築」で、月300万円分の薬剤供与を行っています。イラクでは、高血圧や糖尿病などの慢性疾患の薬が高く、手に入りにくいのが現状です。そのため、できる限り安価なジェネリック商品を購入するようにしていますが、中国製やインド製だと「効きにくい・質が悪い」とのことで医師たちから不評です。
現場にニーズがあるからといって、ただ薬剤を提供しているだけでは資金がいくらあっても足りません。そのため、薬剤の供与と並行して、「疾病の予防教育」を患者さんたちに行っていくことでゆくゆくは医療費を削減できるようにしたいと考えています。
鎌田實先生の講話開催
ここで登場するのが、JCF理事長の鎌田實先生です。「諏訪市で地域医療を根付かせ、長野県を日本一の長寿県にした成果をイラクでも実践したい」という先生の希望もあり、シリア難民が暮らす『ダラシャクラン難民キャンプ』とイラク国内避難民が通う『マルチシムー二教会クリニック』で、「健康講話」を開催することになったのです。
「腰痛体操」のプリント作成
4月のイラク渡航時に、腰痛に苦しんでいる高齢者が多いことに気がつき、鎌田先生から「腰痛体操のプリントを作って、次回のイラク渡航時に配布できるようにしようよ」と言われました。私が今一緒に働いている理学療法士にお願いして、一般的で効果的、そして難民の方が狭い部屋でも実践できるような『腰痛体操』を幾つかピックアップしてもらいました。
その中から良さげな物を私が3つ選んで、日本語を英語に直してプリントを作成。それをイラク人のリカア先生にアラビア語に訳してもらい、現地駐在員の加藤君に日本語とアラビア語の整合性を確認してもらって、完成させたのです~~
ダラシャクラン難民キャンプでの健康講話
暑い日射しの中、「参加者にはプレゼントがあるよ~」と声をかけ、三々五々と高齢者が大型テントに集まってきました。ちなみにプレゼントは「乾燥モロヘイヤ」です。
最初は20人程度でしたが最終的には50人ほどが集まり、みな興味津々に鎌田先生の話に聞き入っていました。日本語→アラビア語→クルド語の2段階通訳が入りましたが、普通だったらなんとなく中だるみしそうな感じなのですが、通訳がとっても素晴らしくて最後まで参加者の気持ちが途切れることがなかったそうです~
この大型テントは床が絨毯と言うこともあり、講話の最後に「腰痛体操」のプリントを配布して加藤君が実際に参加者の前で実践してくれたとのこと。
健康講話にしろ腰痛体操にしろ、最後に質問が多数飛び交い、みなさん積極的に知識を吸収しようとする様子がみられたそうです。
というもの私、講話が20分程過ぎたところで、他のスタッフと退席し、最後まで鎌田先生の話を聞くことができませんでした・・・その間私は、難民キャンプ内の赤ちゃんとママを訪問するという別のミッションがあったのです。
なので、マルチシムー二教会クリニックで数日後に開催予定の講話を楽しみにしていました!
マルチシムー二教会クリニックでの健康講話
最初の講話から数日後。この時は日曜日のミサの後と言うこともあり、100人ほどの方々が講話に参加していました。テレビや新聞の取材なども入り、てんやわんやでした。
鎌田先生の講話はこんな感じでした。
病気の予防のポイントは「少しの運動(1日15分の散歩)」「減塩」「野菜をたくさん食べる」「幸せホルモンをたくさん出す」「人との絆」。
『幸せホルモン』はセロトニンのこと。セロトニンは、些細なことに振り回されず、平常心を保つことで得られる穏やかな幸福感。「今のままで充分」と言うような落着いた充実感。セロトニンをちょっとでも多く出せる生活をしたいですよね。
アメリカのペンシルベニア州に『ロゼット伝説』というのがあるそうです。ロゼット村はイタリアからの移民が多く、みんな肥満傾向。なのに心筋梗塞がとても少ない。研究の結果この村の住民同士の「絆」が関係していることが分かりました。「絆」を持って暮らすことができれば、心臓の病気が少ないということです。
そんな話の最後に、「健康で故郷に帰りましょう」と締めくくり、涙を流す方々もいらっしゃいました。そして次回のプロジェクトにも、「予防教育」を盛り込むことになりました。
プロジェクトの概要
プロジェクトの実施団体→日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)
活動地→イラク共和国アルビル県アルビル市アインカワ地区
実施期間→2015年2月~7月
背景
イラク国内では、去年の夏から激化したダーイシュ(IS)の迫害によって、ニナワ県モスル等からクルド自治区に約85万人の方々が逃れてきています。彼らは建設中の建物や空き家、学校、広場そして宗教施設等で生活をしています。その内、約5万人のクリスチャンは、クルド自治区のアインカワ地区(クリスチャンの地区)で暮らしています。
そんな中、同じ国内避難民でありクリスチャンの医師らが、マルチムーニ教会にクリニックを設け、診療活動を行っています。去年の7月から1日約500人近くを診察しているクリニックでは、9月から薬品購入の資金が足りず、医療設備も不十分なため、慢性疾患を抱える方々の継続した治療が困難な状況にあります。
JCFが2009年から行ってきたサポートしてきたイラクの小児科医であるリカァ・アルカザイル医師が、去年の7月にご家族とともに長野県松本市に避難してきました。リカァ医師の友人であり親戚でもある小児科医のナガム医師がマルチシムーニ協会のクリニックの立ち上げと継続した運営に関わっているため、今回JCFがクリニックのサポートを実施することになりました。
事業内容
1.初期診療における投薬指導
2.カルテ作成と管理スタッフの育成
3.医療チームの派遣による医療体制構築支援
IDPとは
国内避難民のこと。「難民」とは異なり、自分の国の中で避難している人々をさします。