ダラシャクラン難民キャンプで避妊セミナーを開催~マルチシムー二教会クリニックでのIDPに対する医療支援

私の役割

後のコンテンツで述べますが、私はイラクで看護師として「イラクの国内避難民」を対象とした医療活動を行っています。イラクの国内避難民なので彼らはイラク人なのですが、IS(イスラム国)によって迫害された人々です。

その仕事の合間に、イラクにいるシリア難民の方々に対する医療活動も行っています。具体的には、「ダラシャクラン難民キャンプ」で、医療的な問題を抱えている妊婦さんや赤ちゃんを家庭訪問(テント訪問)して、アドバイスをしたり、医療機関につなげたりします。

そして、ダラシャクラン難民キャンプでは「望まない妊娠」をする女性が多く、中には中絶を希望する人もいます。そのため去年に引き続き、「避妊セミナー」を開催することにしました。

ダラシャクラン難民キャンプとは

北イラクのクルド人自治区・アルビル市郊外にある難民キャンプです。2013年末につくられたシリア人のキャンプで、ざっくりとした人数ですが、現在約8000人が暮らしています。

2014年には約7000人のシリア人がここで生活をしており、うち妊婦さんが約250人。今年2015年は妊婦さんの数が約500人で、去年の2倍です!人数が増えたことで、妊婦さんへのケアがなかなか行き届かないのが問題だと、キャンプの看護師が言っていました。

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避妊セミナー

ダラシャクラン難民キャンプ内で、JIM-NET主催、JIM-NETスタッフの榎本さんと現地スタッフのリームが通訳をしてくださり、セミナーを開催しました。最初から「『避妊のセミナー』をやりますよ」と言ってしまうと、興味はあるけれど集まりづらくなってしまうので、「『女性の健康セミナー』で参加者にはプレゼントがあるよ」ということで、参加者を集めました~

前日、大型ショッピングモールに行って、50人分のプレゼントとして用意したのはバクドネスです。バクドネスとはイタリアンパセリのことですが、中東ではサラダなどに入れて日常的に食べられており、なおかつ鉄分が多い食材です。しかし、鉄分が多いことはあまり知られていません。

今回のセミナーの対象者は、妊婦さんや産後すぐの女性なので、鉄分の多い食材をプレゼントしようと思って準備しました!

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まずは、粉ミルクの作り方から

国際機関は母乳育児を推進しており、もちろん私たちも同様です。しかし様々な理由によって粉ミルクを必要としている子どもたちが少なからず存在し、JIM-NETはそんな子どもたちを対象に粉ミルク支援を行っています。

ところが4月!!
粉ミルク支援をしている子どもの1人を訪問したところ、粉ミルクを月に12缶も提供している事が判明。1缶400gなのですが、それを12缶というのは異常すぎる・・・生後8か月で体重が6000g程度で小児科医がフォローしている子どもです。なんでだなんでだああ~~!?!?で、お母さんからよくよく話を聞いてみると、粉ミルクの作り方を間違えていて、倍の量の粉ミルクを溶かしていたんですっ!!オーマイガッ~~!!

もしかしたらこれは氷山の一角かもしれないっ!?文字が読めないけど誰にも聞けないお母さん、文字は読めても理解が出来ないお母さん、いろんな方々がいるでしょう~。ならば、「粉ミルクを推進しているわけではないけど、使うからには正しく理解して使ってもらいたい!」ということで、『粉ミルクセミナー』も同時開催することにしました。

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まずは去年JIM-NETが作成した「妊娠中の過ごし方」冊子の内容の説明をして、まだ受け取っていない妊婦さんにはその場で渡して説明をしました。

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そして、粉ミルクの作り方を実演し、ほ乳瓶の消毒の仕方をお伝えしました。みなさんに質問をしながら話を進めて行きます~

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キャンプ内の家庭訪問をしてほ乳瓶を見せてもらうと、多くの子どもがプラスチック製のほ乳瓶を使っていて、しかも洗ってない!!!なのでほ乳瓶の中は、かぴかぴカチカチになってて汚いんです!!!ほ乳瓶用の洗剤とかブラシとか消毒液など、そういうものを使うのは難しい環境ではあるけれど、少なくともその都度パーツを分解して洗いましょうね、とお伝えしています。

次に、避妊セミナー

で、次はいよいよ本題の「避妊セミナー」です。
まずはみなさんに、自分の生理周期を知っているかどうかの質問をし、何が「正常」で何が「異常」かを説明。

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その後、難民キャンプ内のクリニックで手に入る避妊薬と避妊具を1つ1つ説明し、その使い方やメリットデメリット、避妊率や使用上の注意点などを話しました。

ピルの使い方についての話~

ピル

コンドームについて話をするときは、日本から持ってきた「すりこぎ」を取り出すと、会場からどよめきと、クスクス笑い声が聞こえ、「見ちゃいけないけど、見てみたい~っ!!」感が思いっきり漂ってきます~~ムフフ。
すりこぎを出すだけで、みんな何の事か分かるから凄いです!で、コンドームのつけ方を実演しながら、注意点を伝えます~

コンドーム こんどーむ2

ここまで来るとみなさん、ガッツリ私の話を聞いてくれてるので、最後はちょっと真面目な話をします。『リプロダクティブヘルス・ライツ』について簡単に。私たち女性は性と生殖の問題について発言するのをためらったり、男性の言いなりになってしまう場面が多々あります。それはシリアの女性だけではなく日本女性もしかり。

しかし私たち女性には安全で満ち足りた性生活を営む権利があり、子どもを持つのか持たないのか、いつ何人持つのか、決める権利があるんだということを伝えました。もちろん、『リプロダクティブヘルス・ライツ』とはそんな平べったいモノではありませんが、普段自分の「性と生殖」について考える機会がなかなかない環境にある女性たちに「あなたにはそういう権利があるんだよ」ということを伝えたいなあ、と思って、毎回この話で締めます。

セミナー後は車座で

セミナーが終わってからも5-6人前後が入れ替わり立ち替わり「悩み相談会」でした。1番多い相談が「不正出血」と「不妊治療」について。シリアにいたときはしっかりと通院していたけれど、難民となりキャンプ生活をするようになってからは、それが思うように行きません。

また、「不妊」の悩みの中には、自分も夫もIS(イスラム国)に捕まってる間に複数回に渡って性器に拷問をされたので、それが原因で子どもができないんじゃないか?と悩んでる方もいました。

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セミナーが終わって、もの思ふ

テントを1件1件まわって話を聞いて一緒に問題解決をするって、NGOの事業としては限界があります。けど、そこにサポートの醍醐味があり、やり甲斐があり、1番興味深いところであり、現場で求められている部分だと思うんです。そこをどう折り合いをつけるか、なんですよね。集団がどう変化していくかというマクロの部分と、個別の変化であるミクロの部分の両方の視点で考察できるのがホントは理想。

サポートって「人と人」の間にあるものなので、1度関わった方々のことはずっと気になるし、つながっていたいと思う。そういう、人として自然で単純な思いがベースにあるからこの活動を続けられるんだと思う今日この頃なのです。

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プロジェクトの概要

プロジェクトの実施団体→日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)
活動地→イラク共和国アルビル県アルビル市アインカワ地区
実施期間→2015年2月~7月

背景

イラク国内では、去年の夏から激化したダーイシュ(IS)の迫害によって、ニナワ県モスル等からクルド自治区に約85万人の方々が逃れてきています。彼らは建設中の建物や空き家、学校、広場そして宗教施設等で生活をしています。その内、約5万人のクリスチャンは、クルド自治区のアインカワ地区(クリスチャンの地区)で暮らしています。

そんな中、同じ国内避難民でありクリスチャンの医師らが、マルチムーニ教会にクリニックを設け、診療活動を行っています。去年の7月から1日約500人近くを診察しているクリニックでは、9月から薬品購入の資金が足りず、医療設備も不十分なため、慢性疾患を抱える方々の継続した治療が困難な状況にあります。

JCFが2009年から行ってきたサポートしてきたイラクの小児科医であるリカァ・アルカザイル医師が、去年の7月にご家族とともに長野県松本市に避難してきました。リカァ医師の友人であり親戚でもある小児科医のナガム医師がマルチシムーニ協会のクリニックの立ち上げと継続した運営に関わっているため、今回JCFがクリニックのサポートを実施することになりました。

事業内容

1.初期診療における投薬指導
2.カルテ作成と管理スタッフの育成
3.医療チームの派遣による医療体制構築支援

IDPとは

国内避難民のこと。「難民」とは異なり、自分の国の中で避難している人々をさします。

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